【迷宮在住の野良スライム、ひょんなことから新米冒険者の胸ポケットにお引っ越しする事になる。───スライムに生まれ変わった元勇者の僕が可愛い女の子冒険者に拾われちゃった!?表で可愛がられ裏では無双する充実のスライム生活が始まる!───(番外編おまけの△△視点)】

その①【エリクト】

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頂いたファンアートです(ありがとうございます!)

 目の前には一匹の小さなスライム。

 ツルツルとしていて、丸っこくて、つつくとプルンっと小さく震える。

 綺麗な緑色をしていて、宝石も持っていて、何やら魔法の気配もする。

 そんないかにも訳アリのスライムは、数日前からこの家に居つくことになった。

 忘れもしない。妹がボクに必要な薬草を探しに行くと言って、ボクの制止も聞かずに飛び出して行ったあの日。

 まんじりともせずに待つしかなかったボクの元に、妹はボロボロの姿になって帰ってきた。

 出掛ける時とは違う服装。髪はぐちゃぐちゃ。体はホコリだらけ。顔は汗でべとべと。眉はへにょんと下がっていて…。

 だけど欲しいものは手に入れたと、どこか誇らしい様子で報告してきた。

 ボクは呑気なその姿にカチンときて、褒めるよりも前に怒ってしまった。長いこと説教して、妹が危ない事をしていた事が怖くなって、最後には妹が無事だった事に安心して泣きじゃくった。

 妹も泣いた。ボクがお説教している時にはすでに半泣きで、ボクが泣き出すと釣られたように大泣きした。

 そんな風に2人で泣いていたら、いつの間にか朝まで眠りこけてしまった。

 小さなスライムを発見したのは朝になってからだ。妹の胸元がモゾモゾ動いたかと思うと、胸ポケットからぴょこんと飛び出てきた。

 小さくて、丸くて、見た事のないスライムだった。ビックリしていると、やぁ、とアイサツするように小さな手を振ってきて、ますますビックリしてしまった。妹が冒険先で保護した子だと笑いながら教えてくれた。

 確かに野生のスライムと違って色も形も綺麗だし、躾もしっかりされていた。おまけに宝石なんて体の中に入れている。きっと冒険者のペットの子だ。

 妹はこのスライムにずいぶんと助けられたと、ものすごく褒めちぎっていた。迷宮(……迷宮!?)を攻略する間、ずっと心の支えになっていたらしい。

 そんな訳で、この小さなスライムは家でしばらく預かる事になった。すでにギルドへは報告済みなので、そのうち飼い主が名乗り出てくれるはずだ。それまではきちんと面倒を見なければいけない。

 とは言うものの、妹がせっせとお世話をしているのでボクの出番はあまりない。せいぜい妹の手が離せない間に少し見守ってやるくらいだ。

 ちょうど今も妹が庭で鍛錬しているので、代わりにボクがスライムの遊び相手になっていた。

 触り心地の良さそうなスライムを、指先でちょんとつついてみる。ぷるぷる、小さく震えたあとに、なあに?と言うように体を傾けてくる。

 その拍子に、キラリと中に入っている2つの宝石がきらめいた。妹は1つだけだと思っていたみたいだけど、実際には大小2つの宝石を持っているお金持ちスライムだ。

 生意気だぞ、そんな意味を込めてツンツン突いてやる。

 そのままグリグリと指先で可愛がっていると、スライムは困ったようにぷるるっと震えて、そそくさと指から逃げていった。テーブルの上からぴょんぴょんと降りて、向かった先は中庭にある薬草畑だ。

 妹の拾ったスライムはとても頭が良くて、家の敷地内から出ようとしない。迷子になってもいいように目印の魔法を施したけれど、それも必要ないくらいだ。

 もしかしたらルブリスとエアリアルの魔力が残っていて、それが怖いから家の外に出ないのかもしれない。

 ルブリスとエアリアルというのは、ボクらの知り合いである竜の姉弟だ。

 彼らは年に二回ほどボクの家に遊びにきてくれる渡り竜で、わざわざ近くの平原に数週間ずつ滞在して、ボクたち姉妹に色々な話をしたり珍しいものをくれたりする。

 この近辺であまり魔物の姿を見ないのは、たぶん彼らの魔力が色濃く残っているからだと思う。

 おかげでボクらは町の外にいながら平和に暮らすことができている。そんなルブリスとエアリアルの姉弟のことをボクらは大好きで、いつもとても感謝している。

 彼らが来るとボクの家はとても賑やかになって、毎日が笑顔で溢れることになる。特に妹が楽しそうにしていて…。そんな妹の姿を見るのがボクは大好きだった。

 妹はボクと違って体が丈夫で、病気もほとんどしたことがない。背も高いし、力持ちだし、並ぶとボクの方が年下に見られてしまう。

 だからだろうか。妹はボクに甘えるよりも、ボクを守ろうとすることが多かった。

 普段の生活だってもっと楽をしていいのに、家事をしたりボクの仕事を手伝ってくれたり、せっかくの空いた時間にもせっせと体を鍛えていたりする。

 「大丈夫、やりたくてやってるんだよ」…なんて妹は笑って言っているけど。ボクはもっと年頃の女の子らしく、気楽に過ごしてほしかった。

 そんなボクらの元にやって来たスライムは、気負いがちな妹をいい意味で振り回してくれる存在だ。まるでエアリアルが遊びに来た時のように、妹は毎日とても楽しそうにしている。

 それだけでも十分なのに、なんと小さなスライムは実用面でもとても役に立ってくれた。庭に生えている雑草をもしゃもしゃ食べてくれるのだ。

 特に薬草畑に生えている雑草を食べてくれるのはありがたかった。ボクの仕事も減って大助かりだ。

 ボクとしてはもし元飼い主が見つかっても、家で引き取れないか交渉してもいいと思ってる。譲ってもらえることになったら、妹はとても喜ぶだろう。

 ボクは妹の嬉しそうな顔を思い浮かべながら、ゆっくり歩いて薬草園に向かっていった。

 魔法のお陰でスライムの気配は追えるけど、具体的に何をしているかまでは把握できない。もしかしたらボクの見てない隙にイタズラのひとつでもしている可能性がある。

 薬草畑は薬師のボクにとっての大事な商売道具だ。エリク草ほどじゃないけど、それなりに貴重な薬草も植えてある。

 スライムの様子を見るついでに、薬草畑の手入れもしておこう。そう考えながら畑の様子を覗いてみると、畑の隅で大きな草をモシャモシャ食べているスライムがいた。

「こらっ!何を食べてるの!」

 一目で雑草より大きい草だと分かったので咄嗟に叱ると、スライムはぴょっ!と驚いたように大きく跳ねて遠くに逃げていった。その拍子にスライムの咥えていた草がよく見えて、ボクは目を見開いてしまう。

「スレタ草…?」

 それはエリク草と肩を並べるほどの貴重な薬草の名前だった。どこかの言葉で『唯一』という意味があって、妹の名前の由来にもなっている。

 あまりに強い聖属性の力を持っている草で、一説によると賢者の石の材料のひとつだと言われている。ボクも専門書でしか見た事がないものだ。

 薬草畑を見ると荒らされた形跡は一切ない。少なくともボクの薬草畑から引っこ抜いたものではない。

「………」

 でも、貴重なスレタ草がその辺に生えてる訳もないし…。

「やっぱり見間違い、だよね?」

 たぶん庭の隅に生えていた草でも食べてたんだろう。たまたま角度かなにかの問題で、貴重な薬草に見えたんだ。きっと。

 ボクは自分の結論に納得すると、叱ったことを謝るためにスライムの元へ向かっていった。

「ひゃわっ、スライムさんっ!?」

 そのスライムは、庭で鍛錬していた妹の胸に飛び込んでいる。何かあるとすぐに妹の胸に隠れようとするので、とても分かりやすい子なのだった。

「おーい、スレッター。チビちゃんー」

 ボクはお詫びに薬草のひとつでも食べさせてあげようと思いながら、きゃいきゃいと賑やかに騒いでいる妹たちの所へのんびりと歩いていった。